い草の香りは睡眠前のリラックスに役立つ?
2026年7月23日

理学療法士×畳職人が考える、眠りと身体を整える和室
「しっかり寝たはずなのに、朝から身体が重い」
「布団に入っても肩や腰に力が入り、なかなか眠れない」
「夜中に足がつって目が覚める」
このような悩みを抱えている方は、少なくありません。
良い睡眠を考えるときは、睡眠時間や寝具だけでなく、眠る前に心と身体を休息へ切り替えられているかという視点も大切です。
私は、佐賀県武雄市の整形外科で約12年間、理学療法士として術後リハビリや運動指導に携わってきました。現在は家業である松下畳商会で、畳の製造・施工を行っています。
理学療法士として身体を見てきた経験と、畳職人としてい草に触れてきた経験。その両方から、今回はい草の香り、睡眠、筋肉、自律神経、和室の可能性について考えてみたいと思います。
合わせて読みたい
↓一番読まれている記事↓
畳のよくある質問50選|畳の寿命・張替え時期・費用まで畳職人がわかりやすく解説【佐賀県の畳店】
い草の香りについて、どのような研究が行われているのか
九州大学の清水邦義先生らの研究チームは、乾燥したい草から放出される香り成分が、人の心身にどのような影響を与えるのかを調べています。
2022年に発表された研究では、健康な若者20名を対象に、乾燥い草の香り成分を含む空気を吸いながら視覚課題を行ってもらい、脳波、自律神経活動、血圧、脈拍、主観的な香りの評価などを測定しました。
実験では、
- 乾燥い草15gの条件
- 乾燥い草30gの条件
- い草を含まない空気
を比較しています。
参加者は18歳から28歳の健康な学生で、実験前にはカフェインや激しい運動を避けるなど、条件を整えたうえで測定が行われました。
い草の香りで「リラックスを示す変化」が確認された
この研究では、少ない量のい草の香りを吸ったときに、脳波のα波が増加しました。
α波は、落ち着いているときやリラックスしているときに増えやすい脳波として知られています。
また、い草の香りを含む空気では、副交感神経活動の指標の一つであるHF成分にも増加が見られました。一方で、血圧や脈拍には有意な変化は確認されていません。
研究者らは、い草から放出される香り成分によって、課題への反応速度や正確性を落とすことなく、リラックスした状態が生じた可能性があると考察しています。
つまり、
ぼんやり眠くなるのではなく、集中力を保ちながら落ち着いた状態になる可能性が示された
という点が、この研究の興味深いところです。
実際に、眠気に関係する脳波には大きな変化がなく、研究では「リラックスしていたが、眠くなったわけではない」と考察されています。
「い草の香りで睡眠の質が上がる」と断定はできない
ここで、正しく理解しておきたいことがあります。
今回の研究は、実際に人が眠っている間の、
- 睡眠時間
- 深い睡眠の割合
- 夜中に目が覚めた回数
- 寝つくまでの時間
- 起床時の疲労感
などを測定した研究ではありません。
そのため、この研究だけを根拠に、
い草の香りで睡眠の質が向上する
い草の香りで不眠が改善する
と断定することはできません。
正確には、
い草の香り成分を吸った際に、脳波や自律神経活動に、リラックスを示唆する変化が確認された
という研究です。
また、この研究は参加者が20名と比較的小規模であり、研究者らも、今後はより多くの参加者による検証が必要だとしています。
ただし、睡眠そのものを直接改善するとまでは言えなくても、眠る前に心身を休息へ切り替える環境づくりという視点では、い草の香りに大きな可能性を感じます。
香りは強ければ強いほどよいわけではない
今回の研究で、もう一つ興味深い点があります。
参加者の主観的な評価では、い草の香りを必ずしも「良い香り」と感じていたわけではありません。
酸味や渋み、独特のにおいを感じた人もいました。それでも、脳波や自律神経活動にはリラックスを示唆する変化が見られています。
さらに、強い香りよりも、わずかに感じる程度の少ない量の方が、α波の変化が大きく現れました。研究でも、い草の香りは強くするより、かすかに感じる程度の方が効果的である可能性が示されています。
これは、今後い草を使った空間や商品を考えるうえでも大切な視点です。
い草をたくさん置き、強い香りで部屋を満たせばよいわけではありません。
新しい畳の香りを、自然に、ほのかに感じる。
そのくらいの環境が、心地よいリラックス空間につながるのかもしれません。
自律神経は「整える」より「切り替える」と考える
健康情報では、「自律神経を整える」という言葉をよく目にします。
ただ、自律神経は単純に、交感神経が悪く、副交感神経が良いというものではありません。
仕事や運動をするときには、活動に適した状態が必要です。
一方で、眠る前には、心拍や呼吸が落ち着き、身体を休ませる方向へ切り替わっていくことが大切です。
そのため、睡眠前には、
- 明るい照明を避ける
- スマートフォンから離れる
- ゆっくり呼吸する
- 軽く身体を動かす
- 静かな場所で過ごす
- 心地よい香りや素材に触れる
といった、休息への切り替えを助ける環境が重要になります。
い草の香りは、自律神経を「治す」ものではありません。
しかし、光、音、温度、呼吸などと同じように、心身を活動から休息へ切り替えるための環境要素の一つになる可能性があります。
良い姿勢だけでは、身体の不調は解決しない
肩こりや腰痛があると、
「姿勢を良くしましょう」
と言われることがあります。
もちろん姿勢は大切です。
しかし、見た目だけ姿勢を良くしても、その姿勢を支える筋肉が疲労していたり、必要な筋力を発揮できなかったりすれば、長時間維持することは難しくなります。
無理に胸を張り、腰を反らせて「良い姿勢」をつくっても、かえって身体に力が入り、疲れてしまうこともあります。
理学療法士として多くの患者様やスポーツ選手を見てきた中で感じるのは、
身体を整えることと同じくらい、身体が回復できる生活をつくることが重要
ということです。
整体やストレッチによって、一時的に身体が軽くなることはあります。
しかし、睡眠不足、運動不足、過度な疲労、日常生活の癖などが変わらなければ、再び肩や腰に張りを感じることがあります。
セルフケア、運動、食事、水分、睡眠。
これらは、それぞれ別のものではなく、身体のコンディションを支える要素としてつながっています。
睡眠は、筋肉のコンディショニングにも欠かせない
筋肉の調子を整えるというと、ストレッチやマッサージ、筋力トレーニングを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、身体を動かすだけでは、良いコンディションを維持できません。
活動した後には、休息と回復が必要です。
睡眠が不足すると、
- 身体の疲れが残る
- 集中力が低下する
- 運動する意欲が下がる
- 身体に余計な力が入りやすくなる
- 痛みや張りを強く感じやすくなる
といった悪循環につながることがあります。
「筋肉を緩める」という言葉だけで考えるのではなく、筋肉が回復しやすい生活をつくることが大切です。
い草の香りが直接筋肉を緩めると断定することはできません。
ただ、い草の香りや畳の空間によって心身が落ち着き、睡眠前に身体の力を抜きやすくなるのであれば、コンディショニングを支える環境として活用できる可能性があります。
糖質を摂れば、よく眠れるわけではない
食事と睡眠にも関係があります。
糖質は身体を動かすための大切なエネルギー源であり、極端な食事制限によって、疲労感や空腹感が強くなることもあります。
一方で、
糖質を摂れば睡眠の質が上がる
寝る前に甘いものを食べれば眠れる
という単純な話ではありません。
睡眠には、
- 一日の食事量
- 食事の時間
- 糖質の種類
- 運動量
- カフェイン
- アルコール
- 血糖値の状態
- 生活リズム
など、さまざまな要因が関係します。
特に、食事制限をしているのに体重が落ちない場合、さらに食事量を減らすだけではなく、睡眠時間、疲労、運動量、ストレスなども含めて生活全体を見直すことが大切です。
睡眠だけで痩せるわけではありませんが、食事や運動を継続できる身体の状態をつくるためにも、睡眠は重要な土台になります。
夜中に足がつるのは、水分不足だけが原因ではない
夜中に足がつり、痛みで目が覚める方もいます。
足がつる原因は一つではありません。
- 筋肉の疲労
- 発汗
- 水分や電解質の状態
- 長時間同じ姿勢でいること
- 加齢
- 運動量の変化
- 薬の影響
- 神経や血管の問題
- 原因を特定できないもの
など、さまざまな要因が考えられます。
「水を飲めば必ず治る」というものでもありません。
ただし、日中の水分摂取が不足していたり、汗を多くかいていたりする場合は、水分や食事の状態を見直すことも大切です。
また、睡眠不足が直接足をつらせると単純には言えませんが、夜中に足がつることで睡眠が中断され、翌日の疲労につながることはあります。
何度も繰り返す場合や、しびれ、腫れ、筋力低下、強い痛みを伴う場合は、自己判断せず医療機関へ相談してください。
和室を「眠る場所」だけでなく「眠る準備をする場所」に
睡眠環境というと、枕やマットレスを思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、寝具だけでなく、眠る前に過ごす場所も睡眠環境の一部です。
例えば、寝る前の10分だけでも、
- 部屋の照明を少し暗くする
- スマートフォンを置く
- 畳の上に座る、または寝転ぶ
- ゆっくり呼吸する
- 痛くない範囲で身体を動かす
- い草の香りを自然に感じる
という時間をつくってみてください。
大きく身体を伸ばしたり、無理なストレッチをしたりする必要はありません。
ゆっくり息を吐き、肩や手の力を抜く。
一日の活動を終え、休息へ向かう時間をつくることが目的です。
畳には、椅子に座るだけではなく、
- 座る
- 寝転ぶ
- 身体を動かす
- 深呼吸する
- 家族で過ごす
といった、さまざまな使い方があります。
和室は、ただ眠るための部屋ではなく、心と身体を眠りへ導く準備の場所にもなります。
畳と身体、両方を知っているからできる提案
松下畳商会では、畳を単なる床材として考えていません。
畳は、人が座り、立ち上がり、寝転び、身体を動かし、休息する場所です。
私は理学療法士として約12年間、
- 膝の人工関節置換術後
- 肩腱板断裂術後
- 股関節、手、足の術後
- 慢性腰痛・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症
- 回復期のリハビリ
- 外来での運動器リハビリ
- トレーニング指導
- スポーツ選手の身体づくり
などに携わってきました。
現在は、畳職人として、熊本県産い草の選定、畳の製造、施工を行っています。
この二つの経験を生かし、これからは、
身体を整えることと、身体が整いやすい環境をつくること
の両方を提案していきたいと考えています。
痛みが出てから身体を整えるだけではなく、睡眠、呼吸、運動、セルフケア、住環境を通して、日頃から良い状態を維持する。
そんな場所を、畳屋だからこそつくれないかと考えています。
い草だけですべてが解決するわけではない
い草の香りだけで、睡眠、肩こり、腰痛、体重、足のつりなど、すべての悩みが解決するわけではありません。
睡眠には、
- 生活リズム
- 運動
- 食事
- 水分
- ストレス
- 光
- 音
- 温度
- 寝具
- 身体の状態
など、多くの要素が関係します。
その中で、い草や畳は、
心と身体を休息へ切り替える環境をつくるための一つの選択肢
になれるのではないかと考えています。
強い香りで何かを変えるのではなく、ほのかない草の香りを感じながら、呼吸を整え、身体の力を抜く。
畳の上で過ごす短い時間が、毎日の睡眠や身体を見直すきっかけになればと思います。
畳やい草のある暮らしについてご相談ください
松下畳商会では、熊本県産い草を中心に、お部屋の使い方や生活スタイルに合った畳をご提案しています。
畳替えを考えている方はもちろん、
- 寝室にい草を取り入れたい
- 和室をリラックスできる空間にしたい
- 畳の上でストレッチやセルフケアをしたい
- 高齢になっても使いやすい和室にしたい
- い草と身体について詳しく知りたい
という方も、LINEからお気軽にご相談ください。
写真を送っていただくだけでも、現在の畳の状態や、お部屋に合った畳についてご案内できます。






