畳の歴史は1300年以上|日本独自の敷物が現代まで受け継がれてきた理由
2026年7月13日

畳の上に座ったり、ごろんと寝転んだりすると、なぜか気持ちが落ち着く。
新しい畳の香りをかぐと、「やっぱり畳はいいな」と感じる。
そんな経験はありませんか?
畳は、日本人にとって昔から身近な存在です。
しかし、畳は単なる「昔ながらの床材」ではありません。
長い歴史の中で、日本の気候や住まい、人々の暮らしに合わせて進化してきた、日本独自の建材です。
その歴史は、今から1300年以上前までさかのぼります。
かつては天皇や貴族など、限られた人だけが使う特別なものでしたが、時代とともに武士や庶民へ広がり、やがて日本の住まいに欠かせない存在となりました。
そして現代では、置き畳や半帖へりなし畳など、新しい暮らしに合った形へ進化しています。
今回は、畳がどのように生まれ、どのように現在の形へ変化してきたのか。
さらに、なぜ畳が1300年以上もの間、日本人の暮らしに受け継がれてきたのかを、畳店の視点からご紹介します。
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目次
- 畳の歴史は奈良時代よりも前から始まった
- 奈良時代|現存する日本最古の畳「御床畳」
- 平安時代|畳は身分や権力を表すものだった
- 鎌倉・室町時代|「置く畳」から「敷き詰める畳」へ
- 江戸時代|畳が庶民へ広がり、畳職人が誕生
- 明治・昭和|畳が日本の暮らしの中心へ
- 現代|フローリングの普及と畳の再発見
- なぜ畳の大きさは地域によって違うのか
- 畳は「呼吸する、生きた建材」
- 畳が持つ5つの力
- 畳が1300年以上受け継がれてきた理由
- まとめ
1.畳の歴史は奈良時代よりも前から始まった
畳に関する記述は、日本最古の歴史書とされる『古事記』にも登場します。
「菅畳八重(すがたたみやえ)」や「皮畳八重(かわたたみやえ)」などの記述があり、当時から植物などで作られた敷物が使われていたと考えられています。
ただし、この頃の畳は、現在のように厚みのある畳ではありません。
薦(こも)や莚(むしろ)などの敷物を何枚も重ね、必要な場所へ敷いて使用していたと推測されています。
「畳」という名前も、「たたむ」という言葉が由来になったという説があります。
使うときに広げ、使わないときには畳んで片付ける。
畳はもともと、部屋全体に敷く床ではなく、持ち運びのできる敷物だったのです。
2.奈良時代|現存する日本最古の畳「御床畳」
現存する日本最古の畳は、奈良時代に作られた「御床畳(ごしょうのたたみ)」です。
現在も奈良県の東大寺正倉院に保存されています。
御床畳は、木製の台の上に真薦(まこも)を編んだ敷物を何枚も重ね、その表面を菰(こも)で覆い、美しい錦の縁を付けたものでした。
現在の畳と比べると、床材というよりも、厚みのある寝具に近いものです。
2台を並べ、ベッドのように使用していたとされています。
現在では、畳の上に布団を敷いて眠ることは珍しくありません。
しかし、畳の歴史をたどると、その始まりから「人が休む場所」「心と体を休める場所」として使われていたことが分かります。
3.平安時代|畳は身分や権力を表すものだった
平安時代になると、貴族の邸宅では「寝殿造(しんでんづくり)」と呼ばれる建築様式が広まりました。
寝殿造の部屋は、現在の和室のように畳が敷き詰められていたわけではありません。
広い板張りの部屋に、座る場所や眠る場所だけ畳を置き、座具や寝具として使用していました。
また、この時代の畳は、誰でも自由に使えるものではありませんでした。
使う人の身分によって、
- 畳の厚さ
- 畳を重ねる枚数
- 畳縁の色
- 畳縁の模様
などが細かく決められていたといわれています。
天皇や皇族、貴族などは格式の高い畳縁を使用し、身分によって使える畳が異なりました。
つまり、当時の畳は暮らしの道具であると同時に、その人の立場や権力を目に見える形で表すものだったのです。
今では畳縁は、お部屋の雰囲気や好みに合わせて自由に選べます。
昔は身分を表していた畳縁が、現在では住む人の個性を表すものへ変化したと考えると、とても興味深いですね。
4.鎌倉・室町時代|「置く畳」から「敷き詰める畳」へ
鎌倉時代以降になると、「書院造(しょいんづくり)」と呼ばれる建築様式が発展しました。
それまで畳は、必要な場所だけに置くものでした。
しかし、書院造の広がりとともに、少しずつ部屋全体へ畳を敷くようになります。
小さな部屋では畳を敷き詰め、大きな部屋では壁に沿って畳を並べ、中央部分は板張りのまま残すこともありました。
そして室町時代から桃山時代にかけて茶道が発展すると、茶室の造りとともに、畳の大きさや敷き方も発展します。
畳は、
「人が座る場所」
から、
「部屋全体をつくる床」
へ変化していったのです。
現在の和室の原型は、この頃に形づくられたと考えられています。
5.江戸時代|畳が庶民へ広がり、畳職人が誕生
江戸時代になると、幕府には「御畳奉行(おたたみぶぎょう)」という役職が設けられました。
城や武家屋敷などの畳を管理する役職で、畳が建物の中で重要なものだったことが分かります。
江戸時代の中頃を過ぎると、畳は武士や大名だけでなく、少しずつ町民の暮らしにも広がっていきました。
ただし、当時の長屋では、部屋を借りれば最初から畳が敷かれていたわけではありません。
畳は、部屋を借りる人が自分で用意することもあったとされています。
畳は建物の備品ではなく、長く使う大切な「財産」のようなものだったのです。
そのため、
「畳を干して湿気を取る」
「傷んだ畳表を裏返して使う」
「畳表だけを張り替え、畳床を再利用する」
といった、畳を手入れしながら長く使う知恵が生まれました。
現在も行われている「裏返し」や「表替え」は、昔から受け継がれてきた、日本ならではの合理的な仕組みです。
江戸時代には畳職人の仕事も専門化
畳が庶民へ普及すると、い草の本格的な栽培が始まり、畳を専門に作る「畳職人」や「畳屋」も増えていきました。
当時の畳職人には、さまざまな働き方があったとされています。
呼び名 主な役割 畳屋 店を構え、材料を仕入れ、お客様から注文を受ける親方 畳刺(たたみさし) 店を持たず、直接注文を受けて仕事をする独立職人 手間取(てまどり) 特定の畳屋と関係を結び、下請けを専門とする職人 職人 親方のもとに住み込み、畳作りを行う職人 出居衆(でいしゅう) 忙しい畳店や現場を渡り歩く日雇いの職人 弟子 親方や職人のもとで畳作りの技術を学ぶ人 現在とは呼び方や働き方が異なりますが、畳作りの技術を次の世代へ伝える仕組みは、この頃から受け継がれてきました。
6.明治・昭和|畳が日本の暮らしの中心へ
明治時代になると、身分による畳縁の柄や色の規制がなくなりました。
それまで一部の身分の人しか使えなかった畳縁も自由に使えるようになり、畳は一般家庭へ広く普及していきます。
畳を定期的に干したり、畳表が日焼けしたら裏返したりしながら、大切に長く使う文化も根付いていきました。
昭和に入ると、日本の生活は少しずつ西洋化します。
椅子やソファ、ベッド、カーペットなどが普及しましたが、それでも多くの住宅では畳の部屋が暮らしの中心でした。
高度経済成長期には、
- 新築住宅の増加
- 団地やニュータウンの建設
- マンションの普及
などにより、畳の需要も大きく伸びました。
この時代には畳を縫う機械も開発され、生産技術が大きく進歩します。
また、「畳製作技能士」など、職人の技術を認定する制度も整えられていきました。
7.現代|フローリングの普及と畳の再発見
昭和後期から平成にかけて住宅の洋風化が進み、フローリングの部屋が増えました。
新築住宅では和室の数が減り、「畳は昔のもの」という印象を持つ方も増えたかもしれません。
しかし、フローリング中心の暮らしが広がる一方で、
「床が硬く、直接座りにくい」
「冬場は床が冷たい」
「子どもを安心して遊ばせる場所が欲しい」
「足音や物音が気になる」
「少し横になって休める場所が欲しい」
といった悩みも聞かれるようになりました。
そこで、畳が持つクッション性や肌触り、香り、心地よさが改めて注目されています。
現在では、
- フローリングに置くだけの置き畳
- モダンな半帖へりなし畳
- 洋室にも合わせやすいカラー畳
- 汚れや傷に強い機能性畳
など、現代の暮らしに合った畳が増えています。
畳は昔の姿に戻るのではなく、現代の住宅に合わせて進化を続けているのです。
8.なぜ畳の大きさは地域によって違うのか
畳の大きさは、全国で同じではありません。
地域や建物によって、さまざまな規格があります。
畳の規格 一般的な大きさ 主に使われる地域 関西間(京間) 約1910mm×955mm 関西地方、茶室など 中京間(三六間) 約1820mm×910mm 愛知県など中京地方 関東間(江戸間) 約1760mm×880mm 関東地方など 団地間 約1700mm×850mm 団地、アパートなど 京都では、先に畳の大きさを決め、その畳に合わせて柱の位置を決める「畳割り」という考え方が発達しました。
一方、江戸では、先に柱と柱の間隔を決め、その空間に合わせて畳を作る「柱割り」が使われました。
この建築方法の違いが、地域による畳の大きさの違いにつながったとされています。
ただし、実際の和室にはゆがみや寸法の違いがあります。
そのため畳は、決まったサイズの商品を並べるだけではありません。
畳職人がお部屋を採寸し、一枚一枚、その部屋に合わせて製作します。
畳は昔から続く、日本の「オーダーメイドの床」でもあるのです。
9.畳は「呼吸する、生きた建材」
畳が1300年以上もの間、日本の暮らしに使われてきた理由は、伝統だけではありません。
天然い草には、内部に細かな空洞がたくさんあります。
その構造は、天然のスポンジのようになっています。
湿度が高いときには空気中の水分を吸収し、空気が乾燥すると、蓄えていた水分を少しずつ放出します。
資料では、昔ながらのワラ床と天然い草の畳表を使用した6畳間の場合、約3リットルの水分を吸収・放出する能力があると紹介されています。
つまり畳は、室内の湿度に合わせて働く「呼吸する床」ともいえるのです。
梅雨があり、夏は高温多湿になる日本。
畳は、日本の気候に適した天然の調湿建材として、長く使われてきました。
い草の内部は天然のスポンジ構造
い草を拡大して見ると、内部には無数の細かな穴があります。
このスポンジ状の構造が、
- 湿気を吸収する
- 乾燥すると水分を放出する
- 空気中の一部の物質を吸着する
といった働きを支えています。
見た目は細い一本のい草ですが、その内部には、暮らしを快適にするための自然の仕組みが隠されています。
10.畳が持つ5つの力
畳には、暮らしを快適にするさまざまな特徴があります。
① 湿度を調整する「呼吸する力」
天然い草の畳は、湿度が高いときには湿気を吸収し、乾燥すると水分を放出します。
ただし、畳だけで結露やカビを完全に防げるわけではありません。
定期的な換気や掃除を行いながら使うことで、畳の良さを生かしやすくなります。
② 音や衝撃を和らげるクッション性
昔ながらのワラ床は、ワラを何層にも重ねて圧縮して作られています。
そのため適度な弾力があり、歩いたときの衝撃や振動を和らげます。
現在の建材床にもクッション性や遮音性があり、フローリングと比べて足当たりが柔らかいことも畳の特徴です。
小さなお子様の遊び場や、床に座って過ごす空間にも向いています。
③ 心を落ち着かせる空間
畳の部屋に入ると、自然と気持ちが落ち着くと感じる方も多いのではないでしょうか。
資料では、中学生が「い草畳の部屋」と「一般的な会議室」で算数問題を解いた実験も紹介されています。
畳の部屋では、参加した生徒が比較的早く落ち着き、問題への取り組みに良い傾向が見られたとされています。
畳の香りや肌触り、床に近い姿勢で過ごせることなど、さまざまな要素が落ち着きや集中しやすい環境につながっているのかもしれません。
④ 天然い草が持つ抗菌性
い草については、特定の細菌に対する抗菌作用を調べた研究もあります。
資料では、サルモネラ菌や黄色ブドウ球菌などを対象とした試験が紹介されています。
ただし、畳がすべての菌を防いだり、感染症を予防したりするものではありません。
畳を清潔に保つためには、日頃の掃除や換気、適切なお手入れも大切です。
⑤ い草の香りによる心地よさ
畳替えをしたとき、部屋いっぱいに広がる新しいい草の香り。
この香りを楽しみにされているお客様も多くいらっしゃいます。
い草には、「バニリン」などの香りに関係する成分が含まれています。
バニリンは、バニラの香りにも関係する成分です。
い草の自然な香りは、新しい畳ならではの大きな魅力です。
また、新しい畳の緑色は、時間とともに少しずつ美しい黄金色へ変化します。
天然い草の色の変化は、必ずしも劣化ではありません。
良質ない草は、使い込むほど均一で美しい飴色へ変化していきます。
新品の緑色から、年月を重ねた黄金色へ。
その変化を楽しめることも、天然素材ならではの魅力です。
11.畳が1300年以上受け継がれてきた理由
畳は、1300年以上もの長い間、日本人の暮らしの中で使われてきました。
それは、畳が単なる伝統品だからではありません。
時代ごとの暮らしに合わせて、形や役割を変えながら進化してきたからです。
かつては、天皇や貴族が使う特別な寝具でした。
その後、部屋の一部に置く座具となり、やがて部屋全体をつくる床材へ変化しました。
そして現代では、置き畳や半帖へりなし畳として、フローリングの住宅にも取り入れられています。
畳は「昔の床」ではありません。
日本の気候に寄り添い、人が座る、眠る、遊ぶ、くつろぐための場所をつくる床です。
長い歴史の中で受け継がれてきた知恵と、天然素材ならではの機能を持つ「生きた建材」といえるのかもしれません。
まとめ|畳は昔のものではなく、これからの暮らしにも合う床
畳の歴史は、奈良時代よりも前までさかのぼります。
はじめは、限られた身分の人だけが使う特別なものでした。
しかし、時代とともに一般家庭へ広がり、日本人の暮らしに欠かせない存在となりました。
現代では住宅の洋風化が進み、和室は以前より少なくなっています。
一方で、
- 床に座ってくつろげる
- ごろんと横になれる
- 小さなお子様を遊ばせられる
- 足触りが柔らかい
- 天然い草の香りを楽しめる
といった畳ならではの良さが、改めて見直されています。
畳は、古いから残っているのではありません。
日本の気候や暮らしに合った心地よさがあるからこそ、1300年以上もの間、形を変えながら受け継がれてきたのではないでしょうか。
畳の上に座ったり、ごろんと寝転んだりしたときに感じる安心感。
それは、日本人が長い年月をかけて育て、受け継いできた畳文化の魅力なのかもしれません。
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